蝌蚪うごく火星に水のありしかな
季語は「蝌蚪(かと)」で春。「おたまじゃくし」のこと。時事句と言ってよいだろう。今月はじめにアメリカ航空宇宙局(NASA)の科学者チームが、無人探査車『オポチュニティー』が火星上にかつて生命を支えるのに十分なほどの水が存在していた証拠を発見した、との発表を受けている。残念なことに生物体が存在した痕跡は見つからなかったそうだが、火星人を空想した昔から、地球とは違う星の生命体に対する私たち人間の関心は高かった。存在する(した)とすれば、いったいどんき生き物なのだろうか。人間に似ているのか、それとも植物のようなものなのか、あるいはまた地球上の諸生物とはまったく形状の異なったものなのか。等々、空想や想像をしはじめたらキリがない。でも最近では、火星には生命体の存在できる物質的諸条件は無いという説が有力視されていたために、なんとなく皆がっかりしていた。そこに、今度の発表だ。再び私たちの想像力は息を吹き返し、好奇心に火がつく恰好になった。そこらへんの「蝌蚪」を見ている作者の頭にも、それがあったに違いない。自然に火星の生物へと思いが飛び、存在したとすれば、たとえばこんな姿だったのだろうかと、ぼんやりと想像している。このときに「蝌蚪泳ぐ」ではなく「うごく」としたところが、秀逸だ。「泳ぐ」などではあまりに地球的で人間臭い表現になってしまう。そうではなくて、火星の見知らぬ生物は地球人が見たこともない不気味な「うごき」をするはずなのだ。だから、この句では「うごく」しかない。いずれにせよ、こうした新しい話題を取り込む俳句は少ないということもあり、貴重な一句として書き留めておきたい。
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